
更新日:2026/05/09
2026年5月6日、厚生労働省は「国外航行中のクルーズ船でハンタウイルス感染症が発生した」と発表しました。
本記事では、2026年5月7日時点の 厚労省・国立健康危機管理研究機構・国内医学文献に基づき、
- クルーズ船で起きた感染症の正体
- ハンタウイルス肺症候群(HPS)とは
- 腎症候性出血熱(HFRS)との違い
- 日本国内の自然感染の有無
- 現在の国内状況
- 旅行者が取るべき対策
をまとめました。
今後のニュースや海外旅行の際に参考になれば幸いです。

ハンタウイルスでパンデミックは起こる?

パンデミックの可能性は極めて低いよ。
1. クルーズ船で発生したのは「ハンタウイルス肺症候群(HPS)」
厚生労働省(2026年5月6日公表)によると:
- 病名:ハンタウイルス肺症候群(HPS:Hantavirus Pulmonary Syndrome)
- 症例:7例(確定2・疑い5)
- 死亡:3例
- 日本人乗客:感染なし
- 国内発生:なし
HPS は 南北アメリカ大陸に分布するウイルス による感染症で、日本国内での患者報告はこれまで一度もありません。
2. ハンタウイルスの分類
ハンタウイルスは、ハンタウイルス科オルソハンタウイルス属のウイルスの総称。
ハンタウイルスは 自然宿主(主にげっ歯類:ネズミ等)との結びつきが非常に強いウイルス で、宿主となるげっ歯類の種類によって保有するハンタウイルスも異なります。
そのため、宿主の生息域=ウイルスの生息域 となり、ハンタウイルスは “新世界(アメリカ大陸)” と “旧世界(アジア・欧州)” の2つの系統(グループ)に分類されます。
| 系統 | 分布 | 引き起こす病気 | 主なウイルス |
|---|---|---|---|
| 新世界 ハンタウイルス | 北米・南米 | HPS (ハンタウイルス肺症候群) | ・Sin Nombre virus ・Andes virus など |
| 旧世界 ハンタウイルス | アジア・欧州 | HFRS (腎症候性出血熱) | ・Hantaan ・Seoul ・Puumala ・Dobrava-Belgrade の4種類 |
この分類を理解すると、HPS と HFRS がなぜ地域的に分かれるのか、なぜパンデミックが起こる可能性が極めて低いのか が明確になります。
3. HPS(ハンタウイルス肺症候群)
- Hantavirus Pulmonary Syndrome(HPS)
- 日本語表記:ハンタウイルス肺症候群
主な特徴
HPSは、1993年米国南西部で初めて流行が確認された呼吸器疾患。
- 潜伏期間:1〜5週間
- 主症状:発熱、咳、筋肉痛、嘔吐、下痢
- 重症化:非心原性肺水腫を起こして急速に呼吸不全へ進行
- 治療:早期の集中治療が必須で、時に早い時点での人工呼吸が必要
感染経路
- げっ歯類の排泄物を含む粉じんの吸入
- 汚染された食品・飲料の摂取
- げっ歯類に噛まれる(まれ)
感染したげっ歯類の排泄物(糞尿)や唾液が乾燥して舞い上がった粉じん(エアロゾル)を吸入することで感染します。
致命率
40〜50%
● ヒト-ヒト感染
- 基本的に起きない
- 例外:南米の ANDV(アンデスウイルス)のみ
日本国内の状況
- 国内発生なし
3-1. HPS がアメリカ大陸に限定して発生する理由
HPS を引き起こす 新世界ハンタウイルス は、アメリカ大陸にのみ生息する特定のげっ歯類を自然宿主として維持 されています。
宿主げっ歯類の例
| 自然宿主 (げっ歯類) | 学名 | 対応するウイルス | 主な地域 |
|---|---|---|---|
| シカシロアシネズミ (シカネズミ) | Peromyscus maniculatus | Sin Nombre virus | 北米 (アメリカ・カナダ) |
| 長尾ネズミ属 | Oligoryzomys 属 | Andes virus アンデスウイルス | 南米 (アルゼンチン・チリなど) |
| 和名なし (南米のハツカネズミ類) | Necromys lasiurus | Araraquara virus | ブラジル |
| 和名なし (南米のハツカネズミ類) | Calomys laucha | Laguna Negra virus | 南米 (パラグアイ・ボリビアなど) |
HPS がアメリカ大陸でのみ発生する理由は、原因ウイルスを維持する自然宿主(特定のげっ歯類)がアメリカ大陸にしか存在しないためです。
宿主がいない地域ではウイルスも維持されず、感染症も起こりません。
ヒト-ヒト感染がほぼない
HPS は ヒト-ヒト感染がほぼ起きない ため、宿主がいない地域に広がることもありません。
4. HFRS(腎症候性出血熱)
HFRS(Hemorrhagic Fever with Renal Syndrome)は、アジア・欧州に分布する 旧世界ハンタウイルス4種類 によって発生する感染症で、HPS とは 病態も分布も異なる別疾患 です。
HFRS の原因ウイルス(4種類のみ)
腎症候性出血熱(HFRS)は、以下の4種類のハンタウイルスによって発生します。
| ウイルス名 | 正式名称 | 主な地域 | 臨床的特徴 | 日本との関連 |
|---|---|---|---|---|
| HTNV | Hantaan virus ハンターン | 韓国・中国 | 重症化しやすい | 自然感染例なし |
| SEOV | Seoul virus ソウル | 世界中 (ドブネズミ) | 中等度のHFRS | 日本の過去例はすべてSEOV |
| PUUV | Puumala virus プーマラ | 北欧・ロシア | 比較的軽症(NE) | 自然感染例なし |
| DOBV | Dobrava-Belgrade virus ドブラバ | バルカン半島を含むヨーロッパ | 重症化しやすい | 自然感染例なし |
HFRS の臨床像
- 発熱
- 腎障害(急性腎不全)
- 出血傾向
- 血小板減少
- ショック
感染経路
- げっ歯類の排泄物を含む粉じんの吸入
- 汚染された食品・飲料の摂取
- げっ歯類との直接接触
致命率
ウイルス株により異なり 1〜15%。
※1%未満(プーマラウイルス)から最大15%(ハンターンウイルス)
● ヒト-ヒト感染
- 確認されていない
5. 日本国内における HFRS の自然感染
腎症候性出血熱(HFRS)は、1970〜1990年代に日本国内で自然感染例が複数報告されています。
しかし、
- 2000年代以降は国内自然感染の報告なし
- 現在報告される症例は「海外で感染 → 帰国後に発症」した輸入症例のみ
という状況です。
日本のドブネズミは Seoul virus(SEOV)を保有していますが、保有率は1〜5%程度と低く(中国・韓国は10〜30%)、日本での腎症候性出血熱(HFRS)の自然感染例は非常に稀です。
6. HPS と HFRS の違い
| 項目 | HPS: Hantavirus Pulmonary Syndrome | HFRS: Hemorrhagic Fever with Renal Syndrome |
|---|---|---|
| 日本語表記 | ハンタウイルス肺症候群 | 腎症候性出血熱 |
| ヒト-ヒト感染 | 基本なし 例外は南米の ANDV のみ | なし |
| 主な地域 | 北米・南米(アメリカ大陸のみ) | アジア・欧州 |
| 主症状 | 呼吸不全 | 腎障害・出血 |
| 致死率 | 40〜50% | 1〜15% |
| 日本国内の状況 | 国内発生なし | 1970〜1990年代に自然感染例あり 2000年代以降は輸入症例のみ |
クルーズ船で感染が起きた理由

HPS はアメリカ大陸に限定して発生するため、
- 「MVホンディウス号(MV Hondius)」はアルゼンチンの南端の港を出発
- オランダ人夫婦はバードウオッチングの途中ゴミ処分場を訪れ、げっ歯類曝露の可能性
- 潜伏期間1〜5週間
これらから 乗船前の陸上で感染した可能性が高い と考えられています。
ハンタウイルス感染症はネズミの排泄物に汚染された環境から感染。
今後は「ウイルス名の確定」が最重要
今後どうなるかは、原因ウイルスが ANDV かどうかで分かれます。
「アンデスウイルス」が検出された と報道されています。
- ANDV(アンデスウイルス)なら → ヒト-ヒト感染が起こり得る
- ANDV でなければ → ヒト-ヒト感染は基本的に起こらない
- QANDV(アンデスウイルス)が日本に入ったら流行する?
- A
可能性は限りなく低い。
- ANDV の宿主(長尾ネズミ)は南米にしかいない
- 日本には自然界で維持される仕組みがない
- ヒト-ヒト感染は限定的(家族・恋人・医療従事者レベル)
ANDV であっても、自然宿主は南米にしか存在せず、ヒト-ヒト感染も濃厚接触に限定されるため、日本への影響は極めて低いと考えられます。
旅行者が取るべき対策(クルーズ船向け)
- げっ歯類との接触を避ける
- ネズミの排泄物がある場所に近づかない(古い倉庫、納屋など)
- 体調不良時は早めに船医へ相談
- 日本ではハンタウイルス感染症に対するワクチンなし
- 外務省海外安全ホームページの最新情報を確認
ハンタウイルス感染症まとめ
ハンタウイルス感染症を解説しました。
ハンタウイルスは「ハンタウイルス肺症候群(HPS)」、「腎症候性出血熱(HFRS)」という2つの疾患を起こします。
- ハンタウイルスは 新世界/旧世界の2系統 に分類される
- 新世界ハンタウイルス → HPS(アメリカ大陸限定)
- 旧世界ハンタウイルス → HFRS(4種類のみ)
- クルーズ船で発生したのは HPS(ハンタウイルス肺症候群)
- 現在の国内状況は
HPS:国内発生なし/HFRS:輸入症例のみ - 今後日本国内でヒト-ヒト感染により流行する可能性は極めて低い
そして何より大切なのは、「ハンタウイルス」という聞き慣れない言葉を見て、新型コロナ初期のように不安を膨らませる必要はない ということです。
感染症そのものを恐れるより、正しい情報を知り、落ち着いて対処することが大切です。






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