
更新日:2025/08/28
高齢化社会の進展に伴い、相続人の中に認知症を患っている方が含まれるケースが増えています。
「父が亡くなったが、母が認知症で遺産分割協議書を作れない。
相続税の申告はどうすればいいのだろう…」
こうしたケースは高齢化に伴い、最近よく耳にします。
相続税の申告期限は10か月以内ですが、認知症の相続人がいると協議書を作れず、期限内に申告をどうすればよいか悩む方は多いです。
こうした状況では、遺産分割協議がスムーズに進まず、相続税申告にも影響を及ぼします。
この記事では、認知症の相続人がいる場合の未分割申告の方法と、「申告期限後3年以内の分割見込書」を活用した特例適用の手順を紹介します。
相続税申告に悩んでいる人の参考になれば幸いです。
認知症の相続人がいると遺産分割協議はどうなる?
遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要です。
しかし、認知症により意思能力が欠けている場合、協議に参加することができず、協議自体が無効になる可能性があります。
このような場合は、家庭裁判所に「成年後見人」の選任を申し立てる必要があります。
後見人が選任されるまでには時間がかかるため、申告期限内に分割協議が完了しないことも少なくありません。
相続税申告期限と未分割申告の選択
相続税の申告期限は、被相続人の死亡から10か月以内です(相続税法第27条)。
遺産分割が間に合わない場合は、やむを得ず「未分割」の状態で申告することになります。
ただし、未分割申告では以下のような重要な特例が適用できません:
特例名 | 内容 |
---|---|
小規模宅地等の特例 | 自宅や事業用地の評価額を最大80%減額 |
配偶者の税額軽減 | 法定相続分または1億6,000万円まで非課税 |
これらの特例を適用するには、遺産分割が完了していることが前提条件となります。
「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出で特例適用を確保

未分割申告を行う場合でも、申告書と同時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することで、後日分割が完了した際に特例の適用を受けることが可能です。
申告期限後3年以内の分割見込書とは
相続開始から10か月以内に遺産分割が完了していない場合、「3年以内に分割が完了する見込みがある」ことを税務署に届け出る書類です。
この届出をすると、後から配偶者の税額軽減や小規模宅地特例を適用可能となります。
分割見込書の記載内容
- 未分割の理由(例:認知症による意思能力欠如)
- 分割の見込み(成年後見人選任後に協議予定)
- 分割予定時期(目安)
提出期限は相続税申告書と同時です。
提出しない場合、後日分割が完了しても特例の適用は受けられません。
手続きの流れ
①未分割のまま相続税を申告(期限内)
申告時、「分割見込書」を税務署に提出
②成年後見人の選任などを行い、3年以内に遺産分割協議を実施
③協議書作成後、税務署に更正の請求を提出

④配偶者の税額軽減や小規模宅地特例が適用され、還付される
成年後見制度との連携
認知症の相続人が意思能力を欠く場合、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てます。
後見人が遺産分割協議に参加することで、協議が有効になります。
ただし、以下の点に注意が必要です:
- 後見人は法定相続分を守る立場にあるため、柔軟な分割が難しくなることも。
- 利益相反がある場合は「特別代理人」の選任が必要。
- 後見人報酬(月額2万〜6万円程度)が発生する可能性あり。
また、認知症の相続人には「障害者控除」(最大20万円×年数)の適用も検討できます。
実務上のポイントと注意点
成年後見人の選任や家庭裁判所手続きと合わせて、3年以内に分割を完了させることが重要になります。
また、遺産分割協議完了前に、認知症の人が死亡した場合でも、残された相続人(2人以上)の協議にて遺産分割協議書を作成できます。
- 分割見込書を提出しても、3年以内に分割が完了しなければ特例は適用不可。
- 成年後見人の選任には数か月かかるため、早期の対応が重要。
- 生前に遺言書や家族信託を活用することで、認知症リスクに備えることも可能。
まとめ:認知症リスクには「早期対応」と「書面提出」が鍵
配偶者の税額軽減や小規模宅地特例は、未分割申告+分割見込書を提出し、後日協議成立後に更正の請求で適用できます。
認知症の方は署名・押印が無効とされるため、遺産分割協議書を作成できず、遺産分割の遅延は避けられないこともあります。
しかし、未分割申告と分割見込書の提出を適切に行えば、相続税の優遇措置を確保する道は残されています。
成年後見制度との連携を含め、早期の準備と制度理解が円滑な相続税申告の第一歩です。
ひとまず3年という時間稼ぎにはなりますので、成年後見人を付けるかどうか悩んでいる人はぜひ活用ください。
・ブロガー:2021年ブログ開設
・フリーランス:2021年退職し、バリスタ(サイド)FIRE
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