更新日:2024/08/05
パリ五輪開催中。
何か”疑惑の判定”が多過ぎるような気がしますが…。
パリ五輪の女子ボクシング66キロ級2回戦で問題となったケリフ選手の性別騒動。
いろいろ物議を醸していますが、本質的な問題はただ一つ。
男性と女性をどこで区別するのか、生物学的な性差―セックス(sex)です。
そこで今回はヒトの性別がどうやって決まるのか、ちょっと調べてみました。
ヒトの性を考える上で何かの参考になれば幸いです。
ヒトの性別
男性 | 女性 | |
染色体の性 | 46,XY | 46,XX |
性腺の性 | 精巣 | 卵巣 |
内性器の性 | 精巣上体 精管 精嚢 前立腺 | 子宮 膣 |
外性器の性 | 陰茎、陰嚢 | 陰核、陰唇 |
性同一性 | 男性 | 女性 |
法律上の性 (戸籍上の性) | 男性 | 女性 |
ヒトの性別は、男性と女性の二つです。
男性の精子と女性の卵子が結びつくことによって新たな命が誕生します。
そして産まれてきた赤ちゃんも、やはり男性か女性かのどちらかです。
性別はいったいどのようにして決まるのでしょうか。
男女の性は、まず受精の時に決まります。
ヒトの場合、性別は「X染色体」と「Y染色体」の組み合わせによって決まり、精子が運ぶ性染色体が「X」の場合は女性に、「Y」の場合は男性になります。
性染色体(X染色体とY染色体)に基づき精巣や卵巣が発育し、男女それぞれに特徴的な内性器(体の中の性器)や外性器(体の外側の性器)が造られ、思春期へと続く性分化の過程があります。
これらすべてが、女性なら女性、男性なら男性と一致して初めて、男女が決定されます。
性染色体とは?
ヒトの染色体は、46 本で 1 セット、23対の染色体から成ります。
その内訳は 1番から 22 番までの常染色体が 2 本 1 組で 44 本と、X、Y という名の性染色体が 2 本です。
卵子や精子は、染色体の数が半分に減る減数分裂をします。
男性の生殖細胞である精子は「X精子」(22本の常染色体と1本のX性染色体)と「Y精子」(22本の常染色体と1本のY性染色体)になり、女性の生殖細胞である卵子はすべてX卵子(22本の常染色体と1本のX性染色体)になります。
受精の際にX精子と結びついた卵子は、性染色体がXXとなり、女性(遺伝的女性)になります。
なお、受精時やその後の異常のために性染色体がX1本となったり、XXYなど3本となるなどの異常が起こる場合もあります。
一方、Y精子と結びついた卵子は、性染色体がXYとなり、受精卵の性はY染色体があるので男性(遺伝的男性)になります。
男性はXY染色体を持ち、女性はXX染色体を持ちます。
X染色体とY染色体の違い
ヒトのX染色体とY染色体は大きく異なります。
Y染色体の長さはX染色体の3分の1しかなく、X染色体に比べて少ない遺伝子しか持たないため、生殖器の発生に関わる性決定遺伝子「SRY遺伝子」はY染色体の方にしかありません。
X染色体は多くの遺伝子を持っており、性決定に関するものだけでなく、身体の発達や生命維持に欠かすことのできない遺伝情報も含んでいます
男性、女性はどうやって決まる
遺伝情報のうち、性別の決定に関わる情報を持つ性染色体にはX型とY型の二種類があり、「XY」のペアで男性、「XX」で女性になります。
Xが2本あることで女性となるのでしょうか、それともYがあれば男性となるのでしょうか。
クラインフェルター症候群 47,XXY
クラインフェルター症候群という染色体異常症候群があり、この患者の性染色体は一本多いXXYです。
(染色体総数は47本)
クラインフェルター症候群患者の身体的な特徴は男性で、思春期が来るのが遅れることや、精巣委縮・無精子症などの性腺機能不全、また女性化乳房を認める場合などが主な症状として見られます。
クラインフェルター症候群の原因となるX染色体の不分離は、50%は精子がつくられる過程(第一減数分裂)で起き、40%は卵子がつくられる過程で起きます。
約1000人に1人の男性が発症すると言われています。
遺伝子や染色体の病気というと、遺伝的な要素があるのではないかと考えてしまう方も多いと思うのですが、クラインフェルター症候群はあくまで受精卵が形成される際に偶発的に起こるとされています。
ターナー(Turner)症候群 45,X
一方、ターナー症候群という染色体異常症候群があり、この患者の性染色体はXが1本しか持っていません。
(染色体総数は45本)
ターナー症候群患者は身体的には女性を示す。
約1000人に1人の女性が発症すると言われています。
つまり、Xが2本あってもYがあれば男性であり、Xが1本しかなくてもYを持たなければ女性であると単純に捉えられてきました。
性分化疾患
しかし医学の世界では、性別の境界をまたぐような人々がいることが以前から知られています。
保有する性染色体からみると男性もしくは女性だが、生殖巣(卵巣や精巣、性腺とも呼ばれる)や性別を示す体の構造(内性器や外性器)は別の性のものという具合。
アンドロゲン不応症(Androgen insensitivity syndrome)
アンドロゲンは「男性ホルモン」とも呼ばれ、これは単体では働かず受容体があってはじめて身体に変化をもたらします。
例えば完全型アンドロゲン不応症(CAIS)は、細胞が男性ホルモンに応答しないために起こります。
CAISの人は染色体が46, XYで、Y染色体を持ち、精巣を体内に持ってはいるが、外性器は女性であり、体型、性格も女性的。
幼少期には全く気付かない場合が多く、女児として育ち、思春期になり生理が来ないことなどから疾患が発見されるケースが多く見られるようです。
こうした状態は、生物学的には「間性(intersex)」、医学的には「性分化疾患(Disorders of Sex Development/Differences of Sex Development;DSD)」と呼ばれます。
法律上の性(戸籍上の性)
戸籍法第四十九条では、出生の届け出は生後14日以内にしなければならない、と記載されています。
出産に立ち会った医師または助産師がいない場合は、出産に立ち会った者が「出生証明書」を書くことになります。
子どもの性別は、生まれたときに外性器で判断されることが多く、このときに決定した(届けられた)性別が戸籍上の性となっています。
陰核の肥大した女児であるのか、陰茎が小さい男児であるのか判定に苦慮する場合は、小児内分泌専門医に対応していただくのが望ましいとされています。
通常、戸籍上の性を変えることは困難ですが、特殊な例に限って変更できるようになってきています。
精神・心理的な性(ジェンダー)
性別にはセックスとジェンダーの2種類があります。
セックス(sex)は、生まれ持った体の性別、すなわち性腺、生殖器、性機能などの身体面に現れる生物学的性を指し、通常は出生までに男女のいずれかに分化しています。
生まれてからは、男の子は男の子として、女の子は女の子として育てられ、本人もそのつもりになります。
男の子の方が活発で乱暴だ、女の子は気持ちが細やかで優しいなどの精神的な根底にある性別、すなわち心理的あるいは心の性はジェンダー(gender)と呼ばれます。
性同一性ないし性自認
本人が成人になって自らの性別を男性と考えるか、女性と考えるかということです。
女性ボクシング性別問題
最大の争点は、国際ボクシング協会(International Boxing Association)、略称:IBA(アイバ)が主催した2023年の世界選手権で、テストステロンの数値が高く女子選手としての出場資格を満たしていないとして失格処分を受けたことでしょう。
DNA検査を実施した際、XY染色体を持っていることが証明されたとの報道もあります。
国際オリンピック委員会(International Olympic Committee)、略称:IOCは、組織運営に問題があるとしてIBAを資格停止とし、ボクシング競技を自ら運営しています。
IOCがIBAを資格停止とした理由は、一言で言えばIBAの腐敗です。
審判不正やガバナンス、財政的基盤がロシアの国営天然ガス独占企業「ガスプロム」に偏っていること、倫理上の問題など多岐にわたって問題視されています。
このためIOCは、東京五輪、パリ五輪において資格停止処分を継続。
IBAはスポーツ仲裁裁判所(Court of Arbitration for Sport)に申し立てを行いましたが、2024年4月訴えは棄却されています。
IOCは今回の騒動について「女性として生まれ、女性として育ち、パスポートの記載も女性なので問題ない」として出場を認めています。
男性女性まとめ
男性、女性の生物学的な性差についてまとめてみました。
日常生活において、男性ホルモンの値が高いから男性、Y染色体を持っているから男性と決めつけることはまずないでしょう(笑)
おそらく多くの人は何となく「全体の雰囲気」から男女を判別しているんだと思います。
顔とか髪とか体型、身長はもちろん仕草とか声とか、服装とかを総合的に判断しているはず。
人が顔から性別を知覚するときに「コントラストの違い」が大きく影響を及ぼすとする論文もあります。
つまり、化粧をすることで、顔のコントラストを上げると女性的と知覚され、コントラストが弱く暗い画像は男性的に知覚されるようです。
今回の騒動に限らず、ネット上には様々な情報があふれています。
どの情報が正しくてどの情報が間違っているのかは自分が総合的に判断するしかありません。
この記事の内容もひょっとしたら誤りがあるかもしれませんので、最後の判断は自分で。
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